短編小説『メロスの決断』①~支配者は本当に支配者なのか?

7日に決選投票が行われるフランス大統領選が、先のアメリカ大統領選とまったく同じ構図になってきました(笑)

なんだかんだいって、トランプが勝つことは絶対あり得ない。そんなことを世界が許すはずはない。そんなことになったら世界は破滅だ!と、ぼく自身もそう思っていました。

まあでも、グローバル主義を見直せとの機運は、しばらくアメリカ国内でくすぶるだろうから、クリントンはオバマ以上に難しい舵取りを迫られるかもしれないと……。

しかし、大方の予想を覆して、勝ったのは現在のトランプ大統領でした。

同じように、マクロン氏の優勢が伝えられているフランス大統領選で、ルペン氏が勝ったとしても、世界はもう驚かないでしょう。むしろ、ルペン氏がサッカー界の英雄ジダンに批判されたことで、同じくトランプ氏も多くの著名人に批判されていたことを思い出せば、逆転の機運は高まっているかもしれない――とさえ思ってしまいます。

とはいえ、仮にルペン氏が勝って、EUの基盤が崩れはじめたとしても、人々の意思に反して世界が大きく変わることはないような気もします。

というのは、トランプ大統領でさえ、自分がやりたいことを抑えて、世界の流れと帳尻を合わせようとしているように見えるので、けっきょく誰が上に立とうと、世界の意思に背くことはできないと思うからです。むしろ世界の頂点にいる人たちは、人々の奴隷であるとさえいえるでしょう。

このことに関連して、10年ほど前に「メロスの決断」というタイトルで短編小説を書きました。お察しのとおり、太宰治の「走れメロス」をモチーフにして書いたものです。ちょっと長いですが、編集したその作品を、記事を分けてご紹介させて頂きます……

 

二年ぶりにやってきたシラクスの街は、いつもと様子が違った。すでに日が落ちているせいもあるが、それにしても薄暗く、ひっそりとしている。店の明かりはどこも灯されていて、往来にも人はいるが、その顔はどれも不安げに俯いていた。

何かあったのだろうか……?

メロスは道行く人々をつかまえて、その理由を尋ねた。しかし、人々は皆気まずそうに首を振り、メロスから遠ざかっていった。メロスは不安を抱えたまま、セリヌンティウスの家へ向かった。セリヌンティウスは、メロスの親友だった。

セリヌンティウスはすでに結婚し、妻がいた。その妻が身籠っていると聞いたメロスは、自分のことのように祝福した。やがて、積もる話が一段落ついてから、メロスは街の様子が以前とは違うことをセリヌンティウスに尋ねた。

「実は、王様が人々を殺すのだ……」と、セリヌンティウスは眉間に皺をよせていった。

「なぜ殺すのだ?」

「人々が謀反を企んでいるというのだが、誰もそんなことは考えていない」

「たくさん殺したのか?」

「殺されたのは民衆だけじゃない。王様ご自身の妹をはじめ、両親や自分の子供まで殺してしまった」

「おどろいた、国王は乱心か!」

「なんでも、人を信じることができないらしい。このごろは、派手な暮しをしている者には、人質を差し出すようにとの御触れが出ている。命令に背けば十字架にかけられて、すぐ殺されてしまう。今日もすでに六人が生き埋めにされた。皆罪のない人々ばかりだ」

「あきれた王だ、生かしておけぬ!」

激怒したメロスは、短剣を握りしめて立ち上がった。そして、セリヌンティウスの制止を振り切って、一人城へむかった。

メロスは人を殺したことがなかった。唯一の身内である妹と、村でのんびり暮らしていた。そのくせ、人一倍正義感が強かった。必ず王を取り除かねばならぬと、メロスは決意した。

しかし、城に入ってすぐにメロスは捕えられた。胸にしのばせていた短剣を城の護衛官に奪われたメロスは、そのまま縛られ、王の前に引き出された。

「わしさえ殺せばこの国が平和になると、本気でそう思うか?」と、ディオニス王はメロスに尋ねた。

「当然だ!お前さえいなくなれば、人々はみな安心して暮らすことができる。人々を疑うのは、王として最も恥ずべき行為だ。お前は人々の忠誠心を疑っている」

「ほう、わしが人々の忠誠心を疑っていると?それは誰から聞いたのだ?」

「とぼけるな!今日もすでに六人も罪ない人を生き埋めにしたというのに」

「そうか……」と、眉をしかめた王は、さらにメロスに尋ねた。「危険を冒してまで、なぜわしを殺そうと思ったのだ?おまえを突き動かしているものはなんだ?」

「私には、両親も妻子もいない。ならば、民衆のために命を捨てても惜しくはあるまい」

「はじめから死ぬ覚悟だったというのか?」

「自分の母や妹、子供までも殺す非道な輩を、いつまでも王座に据えておけるか!」

「もうよい……」と、王はメロスの言葉を遮って、「おまえにはわしの孤独はわからぬ。わしはこれでも平和を望んでいるのだ……」とため息をついた。

「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か?罪の無い人を殺して何が平和だ!」

「こんな地位など惜しくはない。お前にはわしの孤独はわからぬ」

「綺麗事はまっぴらだ!そうやっていつまでも人々を欺けばいい!私が死んでも、天はおまえを許しはしない。いつの日かお前には天罰がくだるだろう!」

「おもしろい……」と、王は一瞬目を閉じて沈黙した後、意を決したようにメロスを見直して言った。「そんなに言うならば、わしの代わりにおまえが王となって、この国を治めてみせるが良い」

突然の王の言葉に、城内は騒然とした。いや、一番驚いたのはメロスだった。これは夢か?いや、そうではない。だとするなら、王の気が狂ってしまったに違いない。メロスは王の真意をはかりかねた。

「わしよりも、お前のほうが王にふさわしいかもしれない」呆然とするメロスをよそに、ディオニス王は続けた。「どうせ死ぬつもりで来たのだろ?死ぬより王になって民衆のために働いてみてはどうだ?」

「しかし……」と、メロスは不安げにいった。「私には政治はわからぬ」

「そんなものは知らんでも良い」と、王は薄ら笑いを浮かべて言った。「王にならんというのなら、磔にするしかないが、どうする?」

「その返答、1日だけ待ってくれないか?」と、メロスは躊躇いながら王に懇願した。「村にいる妹にそのことを伝えて、必ずここへ戻ってくる。それまでに必ず返答する」

「そんな暇はない!」王は語気を強めた。「今すぐ決断するのだ」

王は本気だ。さすがのメロスも尻込みした。しかし、いまさら後には引けなかった。メロスはしばし沈黙してから、顔を上げていった。

「わかった、王になろう……」

「それで良い」と、メロスに微笑んで見せたディオニス王の顔は、しかしメロスを憐れんでいるようでもあった。

「よいか、皆のもの。聞いてのとおり、たった今からこのメロスがこの国の王だ。これからは新しいメロス王を皆で支え、共に平和な国づくりに励むのだ」

王としての最後の言葉をそう結んでから、ディオニス王は一人何処かへ去っていった。(続く……

 

0
 
スポンサーリンク