桐谷健太の「海の声」 は芸術だと思う。

はい、タイトルの通りです。ぼくは歌を聴くときに、頭の中で歌詞を追わない癖があって、要は、曲と声だけでその歌の良し悪しを断しているらしいのですが、この歌はヘタな小説や現代音楽より、よっぽど達観していると本気で思います。

ただ声を出しているだけ→だからこそ良い。

確かに、お世辞にも歌が上手いとはいえないでしょう。そういう問題じゃないことは、おそらく誰が聞いてもわかるはずです。じゃあどういう問題なのか?何が良いのか?といえば、そのままの魂と肉体が、そのまま自由に踊っているから、つい聴き入ってしまうのだと思います。

よく聴かせようとか、カッコよく歌おうとか、そういう下心がないことはもちろんですが、それ以上やそれ以下も含めて、あらゆる感情から解放されているように、ぼくには聴こえます。だから、桐谷さんご本人がどういうかはわかりませんが、実は歌詞にほとんど心を込めていないんじゃないか?と思います。

もっといえば、たぶん何も考えていない。ただ声を出しているだけ。さらにぶっちゃけていえば、ちょっと感傷的な歌詞のところの感傷的な顔が超ウソっぽくみえる。でも、だからこそ良いのだと、ぼくは思います。

 

芸術に感情はいらない

芸術は感傷的であってはならない――というのは、ぼくの勝手な持論ですが、なぜそう思うのか?というと、いわゆる感情というものを取り払った中にこそ、その人の本質が隠れていると思うからです。感情は生(なま)の命ではない、ということです。感情で人の心を動かすことはできても、感情で人の魂と肉体を動かすことはできない、ということです。

そして芸術というのは、人の魂と肉体を動かすか、あるいはそれを動かそうとする意思を最低限もっていなければならないとぼくは思っているので、人の心や感情に訴えるだけに留まっている作品を、少なくともぼくは芸術と思うことができないのです。

 

感情未満の魂と肉体を表現したい

魂と肉体とは、命そのもののことです。それこそ、この歌の歌詞にある、海や空もそうだし、山とか川とか……そういうすべての自然と繋がっている導線みたいなもののことです。

自然をみて、人は感動なんかしません。「何といっていいかわからない気持ち」を、とりあえず「感動」と置き換えているだけです。自然をみたときの人間の反応というのは、感動以前(未満)のものです。

結局、人間は自然から生まれ、自然に還る。つまり、自然そのものがすでに人間(自分)であることを、頭や心の中ではなく、細胞が無意識に自覚する状態こそが、自然をみたときの人間の反応の正体だろうと、ぼくは思います。だから言葉では「何といっていいかわからない」のだと思います。

 

「海の声」をもう一度聴いてみましょう……

 

やっぱり、お世辞にも歌が上手いとはいえません。歌詞に心が籠っているようにも聴こえない。ただ歌っている。いや、ただ声を出しているだけ。「桐谷健太」という人間が、ただそこに座ってワーワー騒いでいるだけ……のようにしかぼくには見えません。

でも、だからこそ良い――というのは、こうはなかなかできないと思うからです。なにも考えないで、ただ歌う、ただ声を出す。そのことによって、感情が廃され、感情未満の魂と肉体が剥き出しになる。それはつまり自然そのものということです。

 

小説のために小説を書いているわけじゃない

すでにご覧頂いている方はお分かりでしょうが、ぼくが今書いている小説は、基本的に改行がありません。最近では「、」や「。」も使わず、それらが必要なところは、ぜんぶ「スペース」で区切っています。

なぜわざわざこんな読みづらい書き方をしているかというと、ぼく自身の中のよけいな考えや感情が湧き上がってくるのを抑え込むため――ということも一つには言えると思います。「ぼく」という人間そのものを表現するために、ぼく自身に、何かを考えたり思う暇を与えないようにして書いているということです。それによって、ぼくの中にある感情未満の魂と肉体だけを、表に引っ張り出そうとしているのです。

もとより、その試みがちゃんと成功しているとは、まだ自信をもっていえない部分もありますが、しかしぼくはこの書き方の可能性を今のところ信じています。というか、こういう書き方でもしないと、ぼく自身(人間)の中から、魂と肉体だけを取り出すことはできないだろうと思っています。

いってしまえばぼくは、ぼく自身の純粋な魂と肉体だけを取り出すために、小説というジャンルを利用しているだけで、そのために小説というジャンルからはみ出た(こんなものは小説じゃない)としても、まったく構わないというか……少なくともぼくは、小説のために小説を書いているわけではないのです。

そして、純粋な魂と肉体だけを取り出すことに限りなく成功しているように見える桐谷健太さんの「海の声」もまた、少なくともぼくの目には、歌のために歌っているようには見えないのです。

本記事に投稿した動画は「au」の公式動画ということで、許可を得ずに添付しています。不都合があればお問い合わせフォームよりご指摘ください

 

海の声

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